今週のごあいさつ
味の向こう側を目指して
昨日10月3日より金毘羅院照光会館2階において、四国八十八か所お砂踏みを開廷いたしました。今月25日まで開いております。
例年でしたら4月の大祭に合わせて開くところを、コロナウイルスの影響で長らく延期をしておりましたが、ようやく開催できる運びとなりました。
お砂踏みをするにあたってはお寺の中でも散々話し合いをし、迷いもありながらも「この時期しかない」と思ってご案内をしました。そうしたところ、皆様から「待っていた」「ありがたい」という声をたくさんいただき、やると決めてよかったなぁ、と思っております。
多くの人と参拝が重なることを避けるため要予約でお願いをしておりますが、この期間中どうぞお参りなさって下さい。
さて、最近「モーニングルーティン」なる言葉が言われていますね。朝目覚めてから必ず行う決まり事、みたいなことですが、自分のモーニングルーティンを動画サイトで紹介したりするのが流行っているみたいです。
そしてこれを見て思うわけです。「お坊さんのモーニングルーティンはけっこうなものだぞ。」と。
夜明け前に目覚め、お堂や門を開け、その後勤行(仏前にて読経すること)。勤行が終われば掃除。お堂の雑巾がけやこれからの時期は落ち葉はきもあります。そして瞑想をしたり本を読んで勉強したり。これだけでだいたい3時間くらいかかります。
お寺によってやることの違いはあれども、だいたいは朝早くにおきて世間とはちょっと違う朝の過ごし方をしています。そしてそれを、おそらく生涯やり通します。金毘羅院の先代院主も最晩年まで朝の勤行を怠ることがありませんでした。
こうして見るとお坊さんのモーニングルーティンはなかなかのものでしょう?
さて、ここでこのような疑問がわくかもしれません。「そんなことを毎日続けて飽きないの?」と。
この質問に対するすごくいい答えをみうらじゅんさんが言っていました。
みうらじゅんさん、ご存知ですか?すごく個性的な方ですよね。
みうらさんは色んなものの収集家です。収集家。コレクター。そう聞くと価値のあるものを集める人みたいに聞こえますが、みうらさんの集めるものはそういうものではなく、子どもの遊ぶ「ゴムへび」を膨大に収集したり、もらって困るような各地の土産物を「いやげもの」と称して集めたり、全国各地に伝わる土着のまつりを「へんまつり」と言って取材して回ったりと、とにかく人があまりスポットを当てないものに注目をする方です。面白いですよね。
そのみうらさんが「そういう活動をどうやって飽きずに続けられるのか?」と質問されて「本当は飽きているんだけど、それを飽きていないとごまかしながらやっている。」というような答えをされていました。
これを読んで「あ、まさにそうだな。」と思いました。
お坊さんの朝のルーティンもそりゃ飽きますよ。毎日毎日やっていれば「今日は休みたいな」という日もありますし、「こんなことやって意味があるんだろうか」とか「いつまでやればいいんだろう」という考えが頭をよぎる日もあります。
だけどやっぱりごまかしながらでもやり続けることに意味がある。そのことをお笑い芸人の麒麟の田村さんがあるエピソードとして語ってくれていました。
麒麟の田村さんという方は『ホームレス中学生』という本が話題になりましたよね。幼い頃、家がとても貧しくて一家離散して公園で暮らしていたというすごい人生を歩んでいる方です。
その田村さんがテレビで語っていたのですが、食べるものも質素で、おかずなしで生の食パンをかじっていた。口の中に入れたパンを咀嚼し続けているとだんだん味もなくなってくる。だけどそれでも咀嚼をし続けていると、ある一瞬だけフワッと甘みを感じるときがある。その体験を田村家では「味の向こう側」と呼んでいる。という話でした。
すごい話ですが笑い話としてそのときはお話していたのですが、それを聞いていて「確かにそういうことはあるよな」と思いました。
毎日同じことを繰り返す中で、ある瞬間に出来なかったことが出来るようになる。わからなかったことがわかるようになる。そういうことってあると思います。
そしてそういうことを体験するには「回数をこなす」ということが大事なんじゃないかと思っています。まさに咀嚼の先に「味の向こう側」があるように。
お坊さんになる「得度(とくど)」を受けてもうすぐ20年になります。お坊さんの世界ではまだまだ若輩者ですが、日々続けていることがあればこそ、続けることの意味みたいなものも感じることが出来るようになりました。
お坊さんだけではなく、人間だれしも自分の務めの中でこの「味の向こう側」を求めて日々頑張っているんじゃないかなと思います。
お疲れ様です。時には自信を無くすこともあって大変ですよね。だけど続けることにはちゃんと意味があると思います。お互い頑張りましょうね。
今週も最後まで読んでいただきありがとうございました。
合掌