今週のごあいさつ

白黒つけたがるクセ

 11月も最後の週になりまして、「今年も残すところ…」といったことを考え始めるような時期になりました。寒さもここへ来て強くなったような感じで、冬らしく、年末らしくなってきました。毎年この時期ぐらいから、どんより曇る山陰の空を見て「冬って嫌だな。」って思っています。

 この前ふと思い出したのですが、小学生の時の話です。

 あの頃よく連れて行ってもらっていた焼肉屋さんがありまして、そのお店は小学校の通学路沿いにありました。ある時、そのお店の真横に別の焼肉屋さんがオープンしました。

 その時私は、その新しく出来た焼肉屋さんを、なんというか随分一方的に憎んだ記憶があります。

 おそらく幼心に、わざわざ同業種をぶつけるような形で出店するのは悪いことだ。と思ったり、馴染みのお店が脅かされるんじゃないかと心配して、そんな風に思ったのだと思います。

 ただそのお店は、集客がうまくいかなかったのか、同じ業種が並ぶと新参には不利だったのか、しばらくすると閉店していました。

 その時も幼い私は、やはり正義が勝って悪は負けるのだ、とちょっと満足な気分になったように思います。

 そういったことを大人になって思い出すと、何もそんなに憎まなくってもよかったのにな、なんて思います。

 お店の方だって、そんな見ず知らずの少年に憎まれるいわれもなかったでしょうし。

 それに、わざわざ老舗の同業種の横に出店したことだって、それなりの理由があったのかもしれません。味に絶対の自信があったのか、空いている物件がそこしかなかったのか、あるいは税金対策として形だけのお店だったのか。いずれにせよ何かの理由はあったのでしょう。

 だけど幼い私はそんな理由に思い至るはずもなく、自分に馴染みのあるお店は善で、新しく出来たお店は悪だと決めつけて、勝手に新しい方を憎んでいました。

 そして色々振り返ると、そういった勝手に善悪を決めつけるようなことは、少年期だけではなく、青年期や大人になってからもやっていたな、と思い至ります。

 こっちの方が馴染みがあるから、馴染みのない方は悪い奴だ、とか。親しいあの人があまりよく言っていなかったから、たぶんこの人は悪い人だ。とか、とにかく単純に白黒つけたがる傾向がありました。

 ただ、ある程度年齢を重ねると、どんな人にもそれぞれの事情があることが分かってきます。悪い人だとか、好きじゃないと思っていた人と、ひょんなことから話してみると、思っていたような人じゃなかった。という経験もたくさんしてきました。

 小学生の時だって、もし新しく出来た方のお店に行く機会があれば、思いを改めたり、もっと親しみを感じていたかもしれません。

 全員の事情をしっかり把握する必要はありませんし、そんなことは不可能ですが、誰にだって事情はあるし、そこに至るまでの複雑な縁の重なりがあるんだよな、とちょっと頭の片隅に置いておくだけで、簡単に善悪にわけるようなことは少なくなるのかなと、今では考えていて、それが正しいものの見方につながるのではないかと思っています。

 スパっと竹を割ったようにものの良し悪しが別れれば簡単なのですが、世界はそんなふうには出来ていないようです。

 少しだけでも相手を慮る気持ちを持つことが、この世界での生きやすい生き方なのかもしれません。

 今週も最後まで読んでいただきありがとうございました。          合掌