今週のごあいさつ

暖冬や。今年は暖冬や。

日によって寒暖差が激しくて、でもまだ日中は暑い日もあるんだけども、少しずつ冷える日が増えていく、というまさに季節の変わり目な時期ですが、こういう季節になると無意識に、「だんだん滝が冷たくなって嫌だなぁ」と思ってしまいます。

 もう15年以上前になりますが、京都で1年間、外との交流のない場所でお坊さんになるための修行をしました。その時に毎日3回滝に(滝というよりも溜池みたいなところでしたが)入って身を清める修行もありました。

 夏の間は冷たくて気持ちがいいのですが、だんだん秋に近づく、ちょうど今くらいの時期から急に滝の水が冷えてきて、動物性たんぱく質を摂っていないこのガリガリの体で、寒い冬の滝行を無事に終えられるだろうか。と恐れおののいた記憶がいまだに抜けないのか、この季節になると滝のことを思い出します。

 私たちが修行をした年は記録的な寒波に見舞われた年で、12月初旬から雪が降ったりしていました。雪の中で入った滝は、出た後の記憶が数分間ないくらい冷たかったのですが、外との交流が全くなく、情報も入って来ないので今年の冬がどれくらい寒いのかを知ることが出来ませんでした。

 それでも身をもって例年にない寒さにさらされているので、きっと今年はすごく寒い年なのだろうと思って、毎日修行道場に食事を作りに来てくれるおばちゃんに、「今年はすごく寒い冬ですよね。」と言いました。

 ところがおばちゃんは、記録的な寒波という本当のことを言うと、我々修行僧が落ち込むんじゃないかと思って気を使ってくれたのか、「いや、暖冬や。今年の冬は暖冬や。」と言いました。

 

 おいおい、この寒さで暖冬なのか。精進料理ばかり食べて体の脂肪がなくなると、暖冬でもこれだけ寒く感じるのか。しょっちゅう雪もちらついているけど、それでも暖冬なのか、と我々修行僧は騒然としました。

 ところがある日、修行道場に届いた京都新聞の一面をたまたま目にした修行仲間が、そこに「記録的寒波襲来」の文字を発見し、「大変だ!今年の冬はやっぱり寒いらしいぞ!」とみんなに知らせてくれました。

 そりゃあそうだろう。だって雪降ってるし、氷張ってるし、すごく寒いもん。と我々はようやく納得しました。この寒さは修行僧だけが感じる、ひもじさと切なさと心細さによる寒さではなく、一般の人が新聞の一面に載せるくらいの寒さだったのだと。

 まあそれが分かったからと言って何が変わるわけでもありません。まだまだ寒い冬は続くし、滝には入り続けなければいけないし、寒さに耐えるのも修行だと言われれば確かにそうなのでしょう。でもまぁ、あの寒さが記録的寒波だと知れたことで、ちょっと心が救われたかもしれません。

そんなこともありながらも、無事に仲間全員修行を終えることが出来て良かったです。

 ただこの時期になると、「昼間はいいけど、朝の滝はけっこう寒いよな。」と無意識に考えてしまうし、どこからともなく、あのおばちゃんの「暖冬や。」という声が聞こえてくるのは、滝行の経験が私の心に何かを刻んだんだろうな、ということを思います。

 なんか、もう少しまともなことを書くつもりだったのですが、こんな話になってしまいました。ではまた来週。

 合掌