今週のごあいさつ
単純な話ではないのだけれど
今朝の新聞を読むと、地理学者のジャレド・ダイアモンドさんという方が、世界中で問題になっている出生率低下について書いていました。
その中で、政府や経済学者が懸念している、「出生率が下がると、労働人口が減り、老人が増え、その結果、社会保障費などの負担が増加する。」と言われているけれど、それならば企業の定年制度を見直して、知識も経験も豊富な60代のうちに仕事を止めるのではなく、もっと働いてもらって、せっかくの納税者を年金受給者に変えてしまうのを防いだ方がいいのではないか。
と書いてありました。何冊か著作を読んだことのある方なので、けっこうひいき目に「なるほどなるほど。」と思いながら読みました。
もちろん現場レベルではそれほど簡単なことではないのかもしれませんが、働くことによって自分の居場所を持てたり、生きる意欲を見出す人も多いのだと思います。
そして、働きたい人が年齢を気にせず働けて、その結果「少ない若者が老人を支える社会」という、なんだか苦しそうな状況が改善されるのであれば、悪いことないな、と思いました。
まあ、それほど単純な話ではないのでしょうが。
そこで思うのが、お坊さんは定年制度というのはあまり聞きません。むしろ「坊さんは60歳で見習い、70で半人前、80歳で一人前。」という、けっこう無茶なことをいう人もいるくらいです。
一つには、お坊さんというのは職業ではなく生き方である、という点が大きく、だからこそ一生お坊さんであり続けられるのだと思います。
先代の院主も「一生修行」と言っていました。そういった覚悟があるのなら生涯を通してお坊さんであり続けられるのでしょうね。
現にお坊さんは歳を取っている方がありがたがられる傾向はあるんじゃないかと思います。私も20代、30代前半くらいまでは年齢が低いことで自信を持てなかったことがあります。
まぁ、もちろんこれも、ただ歳をとっていればいいという単純な話ではないのですが。
ただ、最近の風潮として、ちょっといかがなものだろうと思うのは、「老害」という言葉が根付いてしまっていることです。
若い世代にとっては、古い価値観を振りかざす年配の人が、煙たい存在ではあるのでしょう。
そして最近は「老害だ」と言われないように、(あとハラスメントと言われないように)、あまり深く口を出さない人も増えてきたのではないかと思います。
けれど年齢が高い人の言っていることが、すべて時代に合わないものというわけではなく、また若い人の言うことが、すべて革新的な時代をとらえたものでもないはずです。
にもかかわらず、若い人にとって都合の悪い年配のふるまいを、すべて「老害」として、まとめてしまうのは色々と問題があると思います。それこそ、そんなに単純な話ではない。
「温故知新」という言葉があるように、年齢関わらずお互い敬意をもって接していけば、お互いに知ることは多いのではないでしょうか。
そうでなければ、若い人だって、気が付かないうちに「老いていなくても害」なふるまいをしてしまうと思います。
自分の若い時を考えていても、ずいぶん人に迷惑をかけてきました。あれは完全に「若害」だったなと、いまでは反省をしています。
生きていれば色んな問題に直面しますが、どれもそんな単純に白黒つけられるものではなくて、だけど自分の都合だけ最優先にしようと思うと、単純な答えの方が分かりやすかったりします。
それを気を付けて、いつでも複雑な思考を持とうというのは難しいことですが、複雑だけれど、自分なりに付き合っていこうという心構えはあってもいいんだと思っています。
今週も最後まで読んでいただきありがとうございました。 合掌