今週のごあいさつ
足るを知る
突然ですが、認知症と健忘症の違いってわかりますか?
同じ質問を、先日お坊さんの先輩から受けました。その先輩のお父さんが認知症になって、身の回りのお世話が色々と大変だという話から、そんな質問の流れになったのですが、認知症はよく聞きますが、健忘症ってあまり聞かないですよね。
健忘症とはいわゆる「物忘れ」のことで、加齢による脳機能の低下で起こるようです。認知症との大きな違いは、「忘れたことを覚えている」のが健忘症で、「忘れたことを忘れている」のが認知症だそうです。
これだけだとよくわからないですよね。
「忘れたことを覚えている」というのは、例えば食事をしたのは覚えているけど、何を食べたかが思い出せない。とか、顔は分かるけど人の名前が出てこないとかそういった類のことです。
一方「忘れたことを忘れている」というのは、食事をしたこと自体忘れているとか、毎日顔を合わす家族が誰なのかわからないとか、自分の家がわからない、といった症状なのだそうです。
あと、健忘症は昔のことを忘れてしまい、認知症は最近のことを忘れて、昔のことは覚えている。とも言っていました。
認知症にかかってしまうと周りの人のケアが大変になりますし、家族のことも忘れてしまうというのは切ないことですよね。家族も自分も、なるべくならかかりたくない病気です。
ただ、健忘症も困りますよね。なかなか思い出せないというもどかしさがあって、自分の体の衰えも感じてしまいそうです。
どうせならたくさんの物事を忘れないまま生きていきたい。
ただ、先日面白い話を聞きました。
誰もが色んなことを忘れずに記憶しておいた方がいいと思っています。日常のことだけじゃなく、学んだことや経験したことを忘れずにいた方が、何かと便利なはずです。
けれど実はそうではなくて、物事を忘れないと、いろんな不都合があるようです。
どういうことかというと、もしも日々起こったことを全て記憶してしまうと、脳の中で新しい記憶と古い記憶が混同されてしまい、時間の経過がわからなくなるのだそうです。
そうなると昨日の記憶と10年前の記憶の違いがわからないということになってしまいます。だから「忘れる」ということは私たちが時間の経過を実感するための大切な機能なのですね。
ついつい私たちは忘れることに不都合を感じてしまいますが、それは長い進化の過程で、なるべくしてなったものだということです。
よく仏教で「足るを知る」といいます。足らないもの、満たされないものばかり見ていたらいつまでたっても満ち足りることはなく、逆に失って初めて今まで満たされていたことを実感することになります。もしそうだとしたら、私たちはいつまでたっても満たされることはありません。
記憶にしたって、「もっと記憶力があれば」と思うことはあるかもしれませんが、日常生活に支障のない程度に記憶をしているのなら、実はそれで十分なのだということでしょう。
お金にしても、健康にしても、ついつい「まだ足らない」と欲張ってしまいますが、「ほんとは足りてるんじゃない?」と自分に言い聞かせる癖をつけたいものです。
今週も最後まで読んでいただきありがとうございました。
合掌